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壷を自分一人で造った古代人の場合には、こうした企画は、すべて一人の人問の頭脳の中にひらめいて瞬間的にきまってしまう場合もあるが、これを仮に大勢で造るとなれば、誰か指導者がきまって、その指導者のもとにおのおの分野を分担してきめなければならない。例えば、第1の項目であるどのくらいの大きさのものを造るかということだけでも決して簡単なものではない。水の量ひとっにしても、その水を飲む家族の数やその水源までの距離や水汲みの回数1回の運搬可能量による消費量等を勘案して、はじめて決定される。
さて、量が決定したとしても、その形状ということになると、使用する材料できまるし、工作法や工作力によって決まる。しかし、陶器ということに限定されれば粘土が主要材料になる。ここで、いよいよ壷の形状が決定される段階になる。粘土で作られる場合には、球状のものが案外簡単にできるから、球状を主体としたものが最初に考えられるのは当然である。球が、最も表面積が少なくて多量の流体を納めることができることは、物理学の原則であるから、古来一般の壷類が球を主体にしているのをみても、これは生活の知恵と考えてもよい。
しかし、壷が球のままでは安定性がないから、安定性をもたせるためには“糸底”ともいわれる円座が必要である。同時に水を出し入れする口も必要である。口や糸底は大きい方が便利がも知れないが、口が大きすぎると水を入れるには便利でも、すぐこぼれる心配とか、他に水をうつすときに不便だということもある。すなわち、使用目的によって色々な形状が生れてくることになる。
こうした用途、容量、安定、強度、外観等を色々考えて各部の寸法、形状を決定するのが設計(デザイン)である。設計は、色々な要求や条件を全部満足させれば理想的であるが、一般には、これらの要求は相反するものが多いので、どこかに妥協点を見出さなければならない。
これは、口でいうのは簡単であるが、設計者はこの妥協点の発見に苦心惨憺するわけである。第1図でもわかるように、水の取入口と糸底の寸法を仮定しただけでも、無限に近い形状が生れてくる。この形状の中から、要求された容量と安定性と強度とが保たれる形状を選び出さなければならない。その中から、また形状も美しい曲線が厳選されることになる。
単に寸法と形状だけでも、以上のようにその背景にある強度(内圧の決定)、容量といったものの制限を受けることになる。
これも一人の名人の頭の中で処理できる壼のような

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第1.1図

 

 

 

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